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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)11584号 判決

原告 青梅信用金庫

右代表者代表理事 平岡久左衛門

右訴訟代理人弁護士 石川秀敏

同 八木良夫

同 平山国弘

同 浅川勝重

同 藤沢彰

同 寺島健造

同 林紀子

右弁護士平山国弘訴訟復代理人弁護士 古閑陽太郎

同 真田順司

原告 粕屋和三郎

右訴訟代理人弁護士 美作治夫

被告 株式会社 大蔵

右代表者代表取締役 鴨田重房

右訴訟代理人弁護士 池谷昇

被告 村山寛

〈ほか一名〉

右被告ら二名訴訟代理人弁護士 今長高雄

被告 有限会社 黒須材木店

右代表者代表取締役 黒須満男

右訴訟代理人弁護士 石川浩三

同 石川清子

被告 中村富雄

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(一)  原告青梅信用金庫

「原告青梅信用金庫に対し、被告株式会社大蔵は金二二万一六六円、被告村山寛は金六万八、一五三円、被告有限会社黒須材木店は金四二万二、四八七円、被告村山光秋は金二一万六、三九七円、被告中村富雄は金三一万一、六四〇円およびそれぞれ右各金員に対する被告株式会社大蔵、同有限会社黒須材木店、同中村富雄は昭和四四年七月八日から、被告村山寛は同月七日から、被告村山光秋は同月一二日から、それぞれ支払ずみまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行宣言の申立

(二)  原告粕屋和三郎

「原告粕屋に対し、被告株式会社大蔵は金一七万六、六四〇円、被告村山寛は金五万四、九一五円、被告有限会社黒須材木店は金三三万八、六三二円、被告村山光秋は金一七万三、四五〇円およびそれぞれ右各金員に対する被告株式会社大蔵は昭和四五年一二月二五日から、被告村山寛、同有限会社黒須材木店は同月一七日から、被告村山光秋は同月一九日から、それぞれ支払いずみまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行宣言の申立

(三)  被告ら(ただし被告中村富雄を除く)

主文同旨の判決

二  当事者の主張

(請求原因)

(一)  原告青梅信用金庫の請求原因

1、原告青梅信用金庫(以下「原告金庫」という。)は、昭和四一年二月二四日訴外株式会社ユネスコ温泉観光センターに対し、金一、三〇〇万円を、同年五月から昭和四三年九月まで毎月末日限り金三〇万円以上割賦弁済すること、利息は日歩二銭七厘とし、昭和四一年三月から毎月末日限り残代金に対する利息を支払うこと、本貸付債務の担保たる積金の払込および利息の支払を一回でも怠ったときは期限の利益を失うなどの約定のもとに貸し付けたところ、右訴外会社は右積金の払込および利息の支払をいずれも怠ったので、前記約定により期限の利益を失った。

2、そこで、原告金庫は右訴外会社を債務者として東京地方裁判所に対し、前記貸付債権を被保全権利とし、右訴外会社所有の別紙第一目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。」に対する仮差押命令を申請したところ、同裁判所は昭和四二年七月六日、同裁判所昭和四二年(ヨ)第七、一五四号をもってその旨の仮差押決定をし、同月七日これが記入登記がなされた。

3 ところが、そのころ、本件不動産に対しては、訴外岩本喜吉より浦和地方裁判所川越支部に対して強制競売の申立があり、昭和四二年五月一五日同裁判所同年(ヌ)第一二号事件として競売開始決定がなされ(同月一九日その旨の記入登記)、その手続が進行中であったところから、原告金庫代理人弁護士平山国弘は、昭和四三年四月六日、同裁判所に対し、本件不動産登記簿を添付したうえ、本件不動産については前記のとおりの仮差押がなされている旨の上申書(以下「本件上申書」という。)を提出し、ついで、昭和四四年一月一三日右裁判所に前記訴外会社に対する債権計算書を提出した。

4 しかして、原告金庫の本件上申書提出は右裁判所に対する配当要求の効力がある。

すなわち、債権者が強制競売の先行している不動産を仮差押執行の目的財産に選定する意図は、すでに他の債権者によって開始された競売手続を利用して当該不動産の換価代金から満足を受けようとするのであるから、強制競売が先行している不動産に対し、仮差押をなした債権者がその旨を執行裁判所に上申し、配当を求める旨の意思を表明した場合にはこれに配当要求の効力を認めるべきところ、本件上申書の提出は、これとともに提出した「配当加入および配当金受領に関する一切の権限」と記載された原告金庫から弁護士平山国弘、同浅川勝重に委任状の委任事項ともあわせ考えると、なんら配当要求の意思表示として欠けるところはない。もっとも、民事訴訟法第六四六条第一項には、「配当要求はその原因を開示し、かつ、裁判所所在地に住居をも事務所をも有せざる者は仮住所を選定して執行裁判所にこれをなすべし。」と規定しているが、その方式についてはなんらの要求もしていないし、仮住所の選定は執行裁判所の便宜のために定められたものであって追完によって十分補充されるから配当要求の必須条件というべきものではなく、右条項の存在によっても、本件上申書に配当要求の効力を認めるのになんらの妨げとはならない。

5 かりに本件上申書に配当要求の効力が認められないとしても、前記裁判所は、原告金庫の配当要求の手続なくして当然に原告金庫に対し、本件不動産の売得金から配当すべきであった。

すなわち、本件不動産については、昭和四三年四月一〇日被告有限会社黒須材木店から前記裁判所に対し、さらに強制競売の申立があり、右裁判所昭和四三年(ヌ)第一〇号事件として、前記昭和四二年(ヌ)第一二号事件に記録添付されたところ、右昭和四二年(ヌ)第一二号事件は、昭和四三年五月九日前記訴外株式会社ユネスコ温泉観光センターの申立に基く強制執行停止決定によりその進行を停止されるに至り、結局記録添付がなされた前記昭和四三年(ヌ)第一〇号事件について同年七月一九日競落許可決定がなされたものであるから、昭和四二年七月七日になされた原告金庫の本件不動産に対する仮差押の記入登記は右競落許可決定以前に完了しているものであり、しかも右仮差押の事実は本件上申書によって、前記裁判所には明らかであったのであるから、右裁判所は当然に原告金庫に対して配当をなすべきであった。

6 ところが、右裁判所は、原告金庫の提出した本件上申書に配当要求の効力を認めず、或いは当然原告金庫に配当すべきにかかわらず、原告金庫を除外して別紙第二目録記載のような配当表を作成し、これに基いて配当を了した。

7 もし、右裁判所が正当に本件上申書に配当要求の効力を認め、或いは原告金庫には当然配当すべきものとして、原告金庫より提出された前記債権計算書に基いて正当に配当をしたとすれば、法律の定めるところにより当然に優先的配当を受くべき別紙第二目録一ないし七記載の債権者を除くその余の債権者および原告金庫の受くべき配当額は別紙第三目録「配当額」欄記載のとおりであり、したがって、被告らはそれぞれ同目録「現に配当を受けた金額との差額」欄記載の金額につき前記裁判所の違法な配当手続により、法律上原因なくして受領したこととなり、これがため原告金庫は同額の損失を受けたものである。

よって、原告金庫は被告らに対し、不当利得返還請求権に基いて、それぞれ右不当利得金およびこれに対する被告らが悪意になった日の後である請求趣旨記載の日(訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による法定利息金の支払を求める。

(二)  原告粕屋和三郎の請求原因

1 原告粕屋は、昭和四一年二月二四日原告金庫主張のとおりの、訴外株式会社ユネスコ温泉観光センターの原告に対する金一、三〇〇万円の借入債務について、原告金庫に対し右訴外会社と連帯して保証した。

2 ところが、右訴外会社は原告金庫に対する右債務の支払を怠ったため、原告粕屋は、連帯保証人として、原告金庫に対し、昭和四四年一〇月一一日金八九二万円、同年一一月二四日金一五〇万円、合計金一、〇四二万円を支払い、原告金庫の訴外会社に対する債権について右弁済額の範囲内において代位した。

3 ところで、原告金庫は、その主張のとおりの経過で、本件上申書を浦和地方裁判所川越支部に提出したが、本件上申書提出は右裁判所に対する配当要求の効力がある。

4 かりに本件上申書に配当要求の効力が認められないとしても、原告金庫主張のとおりの理由で、前記裁判所は原告金庫の配当要求の手続なくして当然に原告金庫に対し本件不動産の売得金から配当すべきであった。

5 ところが、前記裁判所は原告金庫を除外して原告金庫主張のとおりの配当表を作成し、これに基いて配当を了した。

6 そこで、被告株式会社大蔵、同村山光秋、同有限会社黒須材木店は、原告金庫主張のとおり、その主張にかかる金額を法律上原因なくして受領し、原告金庫は右と同額の損害を受け、右被告らに対しそれぞれ右金額について不当利得返還請求権を有する。

7 原告粕屋は前記のとおり原告金庫に対し、一部弁済をなしたものであり、同原告の法定代位権は、本件のような配当請求権の転化した不当利得返還請求権に及ぶことはいうまでもなく、したがって、原告粕屋は右被告らに対し、その弁済額にみあう請求の趣旨記載の利得金額(別紙第三目録「現に配当を受けた金額との差額」欄記載の金額に一、三〇〇分の一、〇四二を乗じたもの)代位請求権を有する。

よって、原告粕屋は、右被告らに対し、原告金庫の有する不当利得返還請求権の代位請求権に基いて、それぞれ右利得金額およびこれに対する右被告らが悪意になった日の後である請求趣旨記載の日(訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による法定利息金の支払を求める。

≪以下事実省略≫

理由

一  原告金庫の請求について

(一)  ≪証拠省略≫を総合すると、原告金庫の請求原因第一ないし三項記載の各事実を認めることができ(原告金庫と被告株式会社大蔵との間では、原告金庫がその主張のような仮差押決定を得たこと、原告金庫と被告らの間では本件不動産について原告金庫主張のとおりの強制競売の申立があったことはいずれも当事者間に争いがない。)、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  原告金庫と被告中村の間においては、同被告は民事訴訟法第一四〇条第三項により請求原因第一ないし三項を自白したものとみなす。

(三)  ところで、原告金庫は本件上申書には配当要求の効力がある旨主張するので、まずこの点について検討する。

民事訴訟法第六四六条第一項は、「配当要求はその原因を開示し、かつ裁判所の所在地に住居をも事務所をも有せざる者は仮住所を選定して執行裁判所にこれをなすべし。」と規定するが、ここに「原因の開示」を要求しているのは配当要求があった場合、執行裁判所はその旨を利害関係人に通知しなければならないが(同法第六四七条第一項)、これが通知は利害関係人に対しその利害に関して配当要求に対する権利主張の準備をなす機会をあたえるためであるから、配当要求にかかる債権が明らかにされなければ右の通知が無意味になるうえ、特に執行力ある正本によらない配当要求があった場合には、右の通知に対し、同条第二項に基き債務者から配当要求にかかる債権を認諾するか否かを裁判所に申出させなければならないから(債務者が右認諾をしない旨申し出た場合には同条第三項により配当要求債権者は訴を提起してその債権を確定しなければならない。)配当要求をする債権者に予めその債権の内容を明らかにさせるべき必要があるからである。

しかして、右にいう「原因の開示」の程度について考えてみるのに、執行力ある正本によらずして配当要求した債権については、前記のような立法趣旨から、少くとも債権の同一性を認識し、諾否をなす程度の開示であることを必要とし、したがって、当該事件の債務者に対する債権の種類、数額(元本、利息損害金)弁済期等を訴状の請求原因のように開示すべきが相当である。

これを本件についてみるに、本件上申書には、

「 上申書

債権者 岩本喜吉

債務者 株式会社ユネスコ温泉観光センター

右当事者間の御庁昭和四二年(ヌ)第一二号不動産競売事件につき、上申人は東京地方裁判所昭和四二年(ヨ)第七一五四号不動産仮差押事件で目下仮差押中でありますから別紙登記簿謄本を添付上申致します。

昭和四三年四月六日

青梅信用金庫

代理人 平山国弘

浦和地方裁判所川越支部御中 」

との記載があること≪証拠省略≫に照らして明らかであるところ、右記載をもってしては前記に説示した程度の「原因の開示」はなんらなされていないうえ、配当要求をするについては民事訴訟法用印紙法第六条の二第九号により所定の印紙を貼用すべきにもかかわらず、≪証拠省略≫によると、これが貼用もなされていないのであって、本件上申書には配当を要求する旨の意思表示が明確になされていないことともあわせ考えると実質的にも、形式的にも右上申書をもって、適法な配当要求があったとみることはできない。

原告金庫は、本件上申書には原告金庫より弁護士平山国弘、同浅川勝重に対する訴訟委任状が添付されており、これが委任事項には「配当加入および配当金受領に関する一切の権限」と記載された部分があるからこれと本件上申書をあわせて考えると配当要求の意思表示として欠けるところがない旨主張しなるほど≪証拠省略≫によれば、本件上申書には原告金庫主張のとおりの委任状が添付され、その主張のとおりの記載があることが認められるが、もともと右委任状は原告金庫より代理人たる前記弁護士に対する授権の意思表示を記載したものにすぎず、原告金庫より裁判所に対する意思表示とは別個のものであるうえ前記説示のとおりの配当要求に関する実質、形式の要件からすると、右委任状の添付をもってしても、適法な配当要求がなされたものと断ずることはできない。

(四)  次に、原告金庫は本件上申書に配当要求の効力が認められないとしても、裁判所は原告金庫の配当要求手続なくしても当然にこれに対し売得金から配当すべきであった旨主張するので、この点について検討する。

まず、本件不動産につき、原告金庫主張のとおりさらに強制競売の申立があり、その主張のとおりの経過で競落許可決定がなされたことについては、原告金庫と被告株式会社大蔵、同有限会社黒須材木店との間では当事者間に争いがなく、原告金庫と被告村山寛、同村山光秋との間では、≪証拠省略≫によってこれを認めることができ、原告金庫と被告中村との間では、同被告において民事訴訟法第一四〇条第三項によりこれを自白したものとみなす。

右によれば、本件不動産について、訴外岩本喜吉から競売申立がなされこれが記入登記がなされたのは昭和四二年五月一九日であり、原告金庫の仮差押記入登記がなされたのは同年七月七日であることは前記一(一)認定のとおりであるから、結局右仮差押記入登記は、第一の競売申立(訴外岩本喜吉の申立)の記入登記後、第二の競売申立(被告有限会社黒須材木店の申立)による記録添付の前になされ、その後第一の競売事件が執行停止になり、第二の競売申立による事件について競落許可決定がなされたこととなる。

しかして、このような場合、原告金庫は当然に配当手続に加入しうる債権者であるかどうかについて考えてみるのに、もともと不動産仮差押債権者が当然に配当要求債権者として当該配当手続に加入するためには、競売申立記入登記後の仮差押は競売申立人にその仮差押をもって対抗することができないから、右仮差押の記入登記が競売申立記入登記以前になされていなければならないのであって、競売申立記入登記後に仮差押記入登記をした仮差押債権者は当然には配当手続に加入することはできないが、この理はなおその後に第二の競売申立があって記録添付がなされ、しかも第一の競売開始決定の執行が停止された場合においても、右第一の競売開始決定の取消ないしは第一の競売申立の取下げがあった場合とは異なり、いまだ第一の競売開始決定の効力は消滅しているものではないから、なんら消長を受けるものではなく、この場合においても仮差押債権者は当然には配当要求債権者として配当手続に加入することはできないものと解するのが相当である。このように解しても、仮差押債権者は、第一の競売申立記入登記後の仮差押債権者として民事訴訟法第六四六条に基いて配当要求すれば足りるのであって、仮差押債権者に格別の不利益を与えるものではなく、また右のように解さず、第二の競売申立については仮差押記入登記が先行しているとして仮差押債権者に当然に配当要求債権者として配当手続に加入しうる地位を与えるとすると、停止していた第一の競売申立事件の帰すう如何によっては、仮差押債権者は当然の配当要求債権者の地位から再び除外されるなどのことも容易に考えられるところであり、法律関係を徒らに複雑にするものといわなければならない。

したがって、本件の場合原告金庫は、仮差押債権者として配当要求なくしても当然に配当手続に加入し売得金から配当を受くべき地位にあったものということはできない。

(五)  そうだとすると、本件上申書の提出によって、配当要求の効力が生ずること、或いは原告金庫が右配当要求の手続をとらなくとも当然に配当手続に加入して売得金から配当を受くべき地位にあったことを前提とする原告金庫の被告らに対する本訴請求は、その余を判断するまでもなく、理由がないことに帰する。

二  原告粕谷の請求について

(一)  ≪証拠省略≫によれば、原告粕谷の請求原因第一、二項の事実を認めることができる(他に右認定に反する証拠はない。)が、原告粕谷の被告株式会社大蔵、同村山寛、同村山光秋、同有限会社黒須材木店に対する本訴請求も結局本件不動産の強制競売に関し原告金庫の提出した本件上申書が配当要求の効力があること、或いは原告金庫が配当要求の手続をとらなくても当然に配当手続に加入して売得金から配当を受くべき地位にあったことを前提とするものであるところ、本件上申書に配当要求の効力がないこと、原告金庫が当然に配当手続に加入して売得金から配当を受くべき地位にあったものでないこと前記説示のとおりであるから、原告粕谷の本訴請求もまた、その余の点を判断するまでもなく理由がないことに帰する。

三、よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村利教)

〈以下省略〉

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